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住まいの「男の居場所」について

2008年11月21日

  • 筆者 染谷正弘

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 家に帰りたくない、そう思う時は誰にもあるだろう。最近は、家庭をもつ男性サラリーマンに結構多いらしい。そんな時、つい居酒屋に寄り道してしまうのかもしれない。家の駐車場の車の中でしばらくひとり過ごし、深夜になって玄関に入る会社の同僚がいると、友人から聞いたことがある。そうなると、ちょっと深刻だ。

 どうして家に帰りたくないのだろう。それは、マイホームなのに自分の居場所が無い、ひとりになれる場所がない、漠然とそう感じている男性サラリーマンが多いからだと、僕は推察している。以前、このコラムで、子供の「引きこもり」の原因は実に単純で、子供部屋という引きこもる場所があるからだと書いたことがある。よくよく考えてみると、父親には家の中で引きこもる場所がない。つまり、最近の住まいには「男の居場所」が無い、そう思えてならないのだが、実際のところどうなのだろう。

 たとえば、「ホタル族」と呼ばれる愛煙家たちの出現である。最近のマンションでは、夜になるとあちらこちらのバルコニーに煙草の炎が舞い、その光景はまるでホタルが飛んでいるかのようだという。ここ10年ほどで、特に子供のいる家庭では室内で喫煙することはほとんどなくなった。それ自体は、とてもよいことだと思う。でも、バルコニーに舞うはかないホタルの光は、マイホームにおける「男の存在」を象徴してはいまいか。

 ホタル族と言われながらも愛煙家には、バルコニーという自分ひとりになれる場所があるあるからまだいい。煙草も吸わずバルコニーにひとりたたずんでいたらどうだろう、家族から変に思われ、余計な心配をされるに違いない。書斎など望むべくも無いとすれば、マイホームで男がひとりになれる場所はどこにあるのだろうか。あとはせいぜいトイレかお風呂くらいしかない。

 子供には、勉学に励むという大義名分があるから立派な個室が与えられている。料理をするという大義名分がある妻にも、キッチンというやはり自分専用の場所がある。キッチンの換気扇の下で喫煙する男性も多いらしいが、随分と肩身の狭い思いをしていることだろう。それに、専業主婦なら、夫も子供もいない昼間は、家事をしながらマイホームを自由にひとりじめできる。夫婦主寝室も、どちらかといえば主導権は妻の方にあるのではないだろうか。

 以前、このコラムで「ママ司令塔プラン」という間取り提案をしたことがある。それは、マンション住戸の真ん中にキッチンがあり、お母さんがキッチンから家中を見渡して家族の様子を常に見守っているという間取りで、そのプランを分譲マンションのモデルルームにしたら、とても人気が高かった。現代のマイホームの中心的存在は、どうしたってお母さんなのである。

 それは、日本の男性サラリーマンの多くは、妻や子供に比べて家にいる時間は圧倒的に少ないことが主な要因だろう。家族全員が顔を合わせるのは、ほとんど週末しかない。その週末も、お付き合いと称してはゴルフや釣りなどの自分の趣味に明け暮れ、家にいない男性サラリーマンは結構多い。家にいたとしても、日用品の買い物を妻につき合い、あとは居間でTVを見ながらゴロゴロとしているだけだ。そして、妻たちに「亭主は元気で留守がいい」、「週末の粗大ゴミ」と、夫たちは揶揄されてしまうことになる。

 そんな父親の姿を見て子供はどう思い、どう育つのだろう。週末を家で過ごす父親の姿が、自分の父親像のすべてである。父権も失墜するはずだ。日本の男性サラリーマンは、家の中でますます肩身の狭い思いをするようになり、だからますます家にいたくなくなる。もちろん、すべての日本の男性サラリーマンがそうだとは思わない。でも、大なり小なりこの悪循環に陥る傾向にあることは確かだろう。この悪循環が、マイホームでの「男の居場所」をますます希薄にしているとはいえまいか。

 狭いながらも楽しい我が家、その一国一城の主(あるじ)になることを夢見て、男性サラリーマンは一生懸命働き、住宅を購入しているはずだ。そのさい、多くは自分の書斎や通勤時間を我慢しても、妻や子供たちの日々の暮らしやすさを最優先して購入決定しているに違いない。それは、上を見ればきりがないと思いながら、一家の主として自らの経済力に多少の負い目を感じているからのように思う。その負い目は、現代の男性サラリーマン特有のものである。マイホーム購入段階から、すでに「男の居場所」は希薄なのである。

 いまや、私たちの住まいのほとんどは、建売住宅や分譲マンションなどの商品化住宅ばかりになった。その商品化住宅も、妻や子供たちがいかに居心地よく暮らせるかにだけ関心は注がれ、「男の居場所」はほとんど無視され、マイホームとして大量供給されている。商品化住宅に、「男の居場所」は最初から用意されていない。

 そもそも住まい手のライフスタイルが反映した建築空間が、住まいである。また、ライフスタイルは、家族というコミュニティーのありようそのものである。不動産業界が不況の真っただ中にあるいま、マイホームにおける「男の居場所」についてあらためて考え直すべきいい機会のように思う。それが、時代の要請だと考えてもいいかもしれない。次回は、このテーマをより具体的に考えてみたい。

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