2008年10月17日
双環CEOの前で。CAFのシャンボン氏(右)とアブシェ専務(左)
ガソリンのほか、LPG仕様もラインナップされている
報道関係者招待日には、内装のクオリティを検証する人の姿が
電気自動車『チカ』
デザイナーの肖像がエンブレム
■突然、赤い門が
ここのところヨーロッパ自動車業界における話題のひとつに、中国製乗用車の上陸がある。
今年のパリ・モーターショーには、すでにジュネーブ・ショーで常連となったグレートウォール(長城汽車)のほかに、もうひとつ中国車を扱うスタンドが設けられていた。 チャイナ・オートモビル・フランス(以下CAF)という中国車専門インポーターによるものだった。
グレートウォールのスタンドが一般的なディスプレイなのに対して、CAFは中国の建築物をイメージした赤い門を設営し、さらに龍のマークまで描かれていた。チャイニーズ・ムード全開である。心の中で「どら」が響いた。チャイナドレスのコンパニオンがいないのが惜しい。
CAFの主要取り扱い車種は、ジョンウェイ(永源汽車)製のSUV『UFO』と、スァンファン(双環汽車)製SUV『CEO』である。
『UFO』はトヨタRAV4を明らかに参考にした思われるスタイリングをもつことから、すでに各国のショーで話題となったモデルである。今のところ前輪駆動の、なんちゃって4駆−(C)大矢アキオ−のみだが、2009年には4駆も追加されるという。現在、フランスにおける保安基準の認可待ちだ。
もう1台の『CEO』は、2005年に中国で発表された4WD車である。搭載されているエンジンは直列4気筒2.4リッター 104馬力である。
この『CEO』、2007年7月に欧州の保安基準をクリアしたが、こちらはBMW『X5』とスタイリングの近似性が指摘された。そのためドイツでは、BMWからの意匠権侵害の訴えを受けた地元ミュンヘンの裁判所が今年の夏、現地インポーターにCEOの販売中止を命令する判決を下した。
いっぽうフランスでは今年2月、運輸省の基準に適合。フランス初の中国車として発売されることになった。
価格はスタンダード仕様が付加価値税込みで25,990ユーロである。同クラスの日本製SUVと比べると、5千ユーロ近く安い。
■気になる品質は
実際の車両に乗り込んでみると、ダッシュボードとグローブボックスの隙間が明らかに均一でなかったり、スイッチのオン・オフ位置が極めて曖昧だったりと、仕上げは「価格なり」である。
しかし、こちらでは田舎の別荘などで使うセカンドカー、サードカーとして、スパルタンなロシア製4駆『ラーダ』にいまだ根強い人気がある(実際、今回のパリ・ショーにも出品されていた)。マーケットがないと即断することはできないだろう。
前述の“赤門”の下で、カタログを配っている人がいた。CAFのマーケティング広報を担当するベノワ・シャンボン氏だった。
ボルドーを本拠とするCAFの本社スタッフは10名で、シャンボン氏はじめいずれも国内外の自動車業界からの転職者という。目下の目標は2010年から2011年にフランス国内で年間3千台を販売することだ。
ユーザーにとって、最も心配なのはその信頼性やアフターサービスだろう。それに対してシャンボン氏は、「エンジンをはじめパワートレインは、日系メーカーから供給されている信頼性の高い製品です」と胸を張る。
今後本格的に構築作業にかかるディーラー網には、24−48時間以内のパーツ供給システムを整備し、車両には2年もしくは10万kmの製品保証を付けるという。
約3万点の部品で構成されている自動車は総合的な質のレベルが求められるので、決して安易な道のりとは思えないが、彼らの努力は理解すべきだろう。
■誰もやらなかった離れ業
ところで、CAFのスタンドには気になるもう1台のクルマがあった。『チカ』と名づけられたそれは、プロトタイプの電気自動車だった。
全長×全幅×全高は2650×1540×1540mmだから、スマート・フォーツーよりも小さい。怒涛ともいえるテクノロジー合戦のショー会場で、なんともいえぬ憩いムードを漂わせている。
8時間充電・72ボルトのリチウムバッテリーを搭載し、出力4キロワットのモーターで、時速50kmが可能という。しかし何よりも気になったのは、フロントに貼り付けられたエンブレムである。人面なのだ。アジア系調味料のラベルを彷彿とさせる。
勇気をもって、さきほどのシャンボン氏のところに引き返して聞いてみた。すると彼は「ああ、あれはデザイナーですよ」と笑顔で教えてくれた。
『チカ』をデザインした中国人カースタイリスト、リー・シー・ガンミン氏の肖像だという。
機構の世界では、「ド・ディオン・アクスル」から1990年代にいすゞの西堀エンジニアが考案した「ニシボリック・サスペンション」まで、人名をつけたものは歴史上たくさんあった。
しかし、デザイナーの顔を貼り付けてしまうとは、ピニンファリーナもベルトーネも、ジウジアーロでさえもやらなかった離れ業である。
これをきっかけに、来年あたり「デザイナーの肖像エンブレム」が自動車界のトレンドになったら、これまた面白いと思いませんか?

歌うようにイタリアを語り、イタリアのクルマを熱く伝えるコラムニスト。1966年、東京生まれ、国立音大卒(バイオリン専攻)。二玄社「SUPER CAR GRAPHIC」編集記者を経て、96年独立、トスカーナに渡る。自動車雑誌やWebサイトのほか、テレビ・ラジオで活躍中。
主な著書に『イタリア式クルマ生活術』、『カンティーナを巡る冒険旅行』、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(いずれも光人社)。最新刊は、『Hotするイタリア―イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』(二玄社)。